微量元素とは
健康で長生きするために、生命や老化を調節、支配する、あるいは脅かす微量元素について考えてみましょう
生命を維持する微量元素の生理機能と代謝
現在、地球上で確認されている元素の総数は118種類にのぼるが、哺乳動物を含め、ヒトの体はすべて元素から成り立っている。この中で、アミノ酸、たんぱく質、核酸、脂肪、糖などに利用されている酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、カルシウム(Ca)、リン(P)の6種類の元素は体内濃度が高く、多量元素と呼ばれる。6種類の元素を合計すると、人体中の体内存在量は98.5%を占める。
次に、多い元素は硫黄(S)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)で、体内存在量は0.05〜0.25%)を占め、少量元素と呼ばれる。
多量元素と少量元素を合わせた11元素を常量元素と呼び、これらを合計すると人体中の体内存在量は99.3%を占めることになる。
しかし、これら11元素だけでは生命ならびに健康を維持することは出来ない。残りの0.7%には微量ではあるが、生命機能を維持する上で、極めて重要な元素である微量元素と超微量元素が含まれる。鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ルビジウム(Rb)、臭素(Br)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、銅(Cu)の10元素はppmオーダーで存在しており、微量元素と呼ばれる。さらに、ppbオーダーしか存在しない超微量元素にはアルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、セレン(Se)、ヨウ素(I)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、コバルト(Co)、バナジウム(V)の14種類がある。
これら24種類の微量元素の内、ヒトにとって必須微量元素 essential trace elements として認められているものはFe、Zn、Mn、Cu、Se、I、Mo、Cr、Coの9元素である。従って、ヒトにおける必須元素は多量元素、少量元素、微量元素を合わせると20元素となり、生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素である。
次に、多い元素は硫黄(S)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)で、体内存在量は0.05〜0.25%)を占め、少量元素と呼ばれる。
多量元素と少量元素を合わせた11元素を常量元素と呼び、これらを合計すると人体中の体内存在量は99.3%を占めることになる。
しかし、これら11元素だけでは生命ならびに健康を維持することは出来ない。残りの0.7%には微量ではあるが、生命機能を維持する上で、極めて重要な元素である微量元素と超微量元素が含まれる。鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ルビジウム(Rb)、臭素(Br)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、銅(Cu)の10元素はppmオーダーで存在しており、微量元素と呼ばれる。さらに、ppbオーダーしか存在しない超微量元素にはアルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、セレン(Se)、ヨウ素(I)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、コバルト(Co)、バナジウム(V)の14種類がある。
これら24種類の微量元素の内、ヒトにとって必須微量元素 essential trace elements として認められているものはFe、Zn、Mn、Cu、Se、I、Mo、Cr、Coの9元素である。従って、ヒトにおける必須元素は多量元素、少量元素、微量元素を合わせると20元素となり、生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素である。
健康な生体では多種類の元素が様々な濃度で存在し、一定の元素バランスを保ち、正常な生命機能の維持に重要な役割を担っている。すなわち、種々の微量元素は生体内でバランス良く維持され、細胞の内側と外側の元素イオンの濃度を極めて厳密に生理的最適濃度範囲 optimum concentration range に維持・調節されている。これを微量元素のホメオスタシスhomeostasis(恒常性)という。
しかし、そのバランスが欠乏や過剰により破綻し、恒常性が失われると、特定元素の過剰蓄積や欠乏が誘発され、それぞれ特有の疾病が誘発される。一般的には、多量元素の撹乱は栄養障害や水電解質異常として現れ、微量元素の撹乱は生体内の酵素や生理活性物質の機能障害として現れる。
微量元素は電子伝達、シグナル伝達のような生理機能の発現、酸化還元、酸素分子の運搬や貯蔵、加水分解反応のような生体触媒機能の発現あるいは遺伝子発現に関与するたんぱく質や酵素に必要不可欠なものであり、もし欠乏すると生化学的に異常反応を引き起こし、種々の疾患の原因となる。
また、逆に過剰な元素の摂取によっても元素特有の重篤な疾病につながる。とくに、CaやZn、Fe、Cu,Mnのような遷移元素は細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心でもあり、それらの撹乱はそれぞれの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して脳神経系、免疫系、内分泌系、消化器系、循環器系、栄養代謝系などさまざまな領域の機能障害を誘発する。
微量元素が動物生理において重要であることが認識され始めたのはほんの1世紀ほど前のことである。最初の25年は発光分光分析の技術によるヒトの健康と栄養におけるFeとIの研究に始まるが、その後の原子吸光分析、高エネルギー加速器および原子炉(中性子放射化分析)やICP発光分析、ICP質量分析などの分析技術の進歩、精製飼料の開発とそれによるアプローチの急速な進展などによって、Cu、Mn、Zn、Mo、Se、Cr、Coのような微量元素の組織、細胞下レベルでの代謝や生理的重要性、さらには必須性が明らかとなってきた。微量元素の欠乏症や過剰症については、以下の各論に委ねる。
微量元素の多くはその化学形あるいは結合形および体組織と体液中の存在位置に応じて、さまざまな機能を持っている。その中でも特徴的なものとして、例えばIとCoが挙げられる。すなわち、それぞれの元素が持つ独自の機能がそれらにより構成される単一の化合物、チロキシン(トリヨードチロニン)やビタミンB12(シアノコバラミン)の機能そのものを反映している。したがって、チロキシンやビタミンB12のさまざまな代謝過程への関与は、すなわちIやCoの関与ということになる。
組織の機能上および構造上の完全さを保ち、生命ならびに健康を維持するためには、微量元素の機能形態や特有の濃度はその至適範囲を維持しなければならない。特定の微量元素が欠乏したり、バランスが失われていたり、過剰に含まれたりしている食餌を続けて摂取すると、体組織あるいは体液中のその元素の機能形態、活性あるいは濃度の変化を誘発し、そのため許容し得る限界値から外れてしまうことになる。このような状況のもとでは、生化学的な欠陥が生じ、生理機能に影響が現れ、構造上の異常が起こるが、その様相は元素の違い、食餌中の欠乏や毒性の程度と持続時間、年齢、性別などによって異なる。
個々の微量元素の代謝や生理的機能の詳細については、以下の各論に委ねるが、生理的機能については、上述のように、ヒトにおける必須元素は多量元素、少量元素、微量元素を合わせると20元素にもなり、それぞれの元素が独自の機能を発揮し、生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素として重要な役割を演じている。ヒト必須微量元素の主な生理機能について、表にまとめたので、参照されたい。
しかし、そのバランスが欠乏や過剰により破綻し、恒常性が失われると、特定元素の過剰蓄積や欠乏が誘発され、それぞれ特有の疾病が誘発される。一般的には、多量元素の撹乱は栄養障害や水電解質異常として現れ、微量元素の撹乱は生体内の酵素や生理活性物質の機能障害として現れる。
微量元素は電子伝達、シグナル伝達のような生理機能の発現、酸化還元、酸素分子の運搬や貯蔵、加水分解反応のような生体触媒機能の発現あるいは遺伝子発現に関与するたんぱく質や酵素に必要不可欠なものであり、もし欠乏すると生化学的に異常反応を引き起こし、種々の疾患の原因となる。
また、逆に過剰な元素の摂取によっても元素特有の重篤な疾病につながる。とくに、CaやZn、Fe、Cu,Mnのような遷移元素は細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心でもあり、それらの撹乱はそれぞれの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して脳神経系、免疫系、内分泌系、消化器系、循環器系、栄養代謝系などさまざまな領域の機能障害を誘発する。
微量元素が動物生理において重要であることが認識され始めたのはほんの1世紀ほど前のことである。最初の25年は発光分光分析の技術によるヒトの健康と栄養におけるFeとIの研究に始まるが、その後の原子吸光分析、高エネルギー加速器および原子炉(中性子放射化分析)やICP発光分析、ICP質量分析などの分析技術の進歩、精製飼料の開発とそれによるアプローチの急速な進展などによって、Cu、Mn、Zn、Mo、Se、Cr、Coのような微量元素の組織、細胞下レベルでの代謝や生理的重要性、さらには必須性が明らかとなってきた。微量元素の欠乏症や過剰症については、以下の各論に委ねる。
微量元素の多くはその化学形あるいは結合形および体組織と体液中の存在位置に応じて、さまざまな機能を持っている。その中でも特徴的なものとして、例えばIとCoが挙げられる。すなわち、それぞれの元素が持つ独自の機能がそれらにより構成される単一の化合物、チロキシン(トリヨードチロニン)やビタミンB12(シアノコバラミン)の機能そのものを反映している。したがって、チロキシンやビタミンB12のさまざまな代謝過程への関与は、すなわちIやCoの関与ということになる。
組織の機能上および構造上の完全さを保ち、生命ならびに健康を維持するためには、微量元素の機能形態や特有の濃度はその至適範囲を維持しなければならない。特定の微量元素が欠乏したり、バランスが失われていたり、過剰に含まれたりしている食餌を続けて摂取すると、体組織あるいは体液中のその元素の機能形態、活性あるいは濃度の変化を誘発し、そのため許容し得る限界値から外れてしまうことになる。このような状況のもとでは、生化学的な欠陥が生じ、生理機能に影響が現れ、構造上の異常が起こるが、その様相は元素の違い、食餌中の欠乏や毒性の程度と持続時間、年齢、性別などによって異なる。
個々の微量元素の代謝や生理的機能の詳細については、以下の各論に委ねるが、生理的機能については、上述のように、ヒトにおける必須元素は多量元素、少量元素、微量元素を合わせると20元素にもなり、それぞれの元素が独自の機能を発揮し、生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素として重要な役割を演じている。ヒト必須微量元素の主な生理機能について、表にまとめたので、参照されたい。
元素 | 主な生理機能 |
鉄 Fe |
大部分のFeはタンパク質と結合して存在し、その約65%がヘモグロビンとして、約15〜30%がフェリチン、ヘモシデリンとして、約5%が筋肉中にミオグロビンとして存在。酸素貯蔵、酸素運搬、電子伝達、生体エネルギー生成などの生命機能の維持にかかわるヘムタンパク質に必須。細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心として活性化機構やシグナル伝達機構に重要。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼなどの抗酸化酵素の構成成分。 |
亜鉛 Zn |
前立腺に高濃度に存在。濃度降順に、骨、腎、筋、肝、心臓、消化管、脳、睾丸、卵巣。300種以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心。Znホメオスタシスの撹乱、とくにZn欠乏は細胞内代謝や細胞応答に関与するそれぞれの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して脳神経系、免疫系、内分泌系、消化器系、循環器系、栄養代謝系などさまざまな領域の機能障害を誘発。先天性の欠乏症として先天性腸性肢端皮膚炎あり。標的酵素:アルカリホスファターゼ、ポリメラーゼ、ペプチダーゼ、SOD |
銅 Cu |
Cuの代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系である。Cuは血清アルブミンと結合し、肝、腎でセルロプラスミンに取り込まれ、肝臓に達したCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て糞中に排泄。肝、腎に高濃度に存在するが、臓器特異性はない。Cuイオンは各種の酸化還元酵素の補因子として種々の生理作用に機能。酸素運搬、電子伝達などの生命機能の維持にかかわるCu酵素の活性化機構に関与。Cu欠乏はセルロプラスミン、シトクロムC酸化酵素、リシル酸化酵素、チロシナーゼの活性低下を誘発。先天性の欠乏症としてメンケス病、過剰症としてウイルソン病あり。 |
マンガン Mn |
Mnはトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送され、肝臓を経由して胆汁に移行し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄。肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多含。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在。糖新生過程のピルビン酸カルボキシラーゼ、骨形成時のプロテオグリカン合成に重要なグルコシルトランスフェラーゼ、抗酸化作用を持つスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの金属酵素の補欠因子として機能。CaやPによるMn代謝(吸収、貯留)の妨害。 |
セレン Se |
摂取したSeの体内動態はSeの栄養状態により変化する。Se充足状態では肝、腎に蓄積した後、すみやかに排泄。Se欠乏状態では精巣、甲状腺など内分泌器官に優先的に分布。生体内に吸収されたSe化合物は最終的にセレナイドに代謝され、Se含有タンパク質に取り込まれ、セレノシステインとして存在。Seはグルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素、あるいは甲状腺ホルモン(チロキシン)の代謝(T4からT3に変換する)に必要な脱ヨード化酵素の構成成分。Se欠乏は心筋症を誘発(中国・克山病)。Se過剰は神経症状、胃腸障害、成長障害、爪の変色と脱落、脱毛などの症状を誘発。 |
クロム Cr |
小腸から吸収されたCr⁶⁺は赤血球膜を通過し、赤血球内でCr³⁺に還元されてヘモグロビンと結合。Cr³⁺は赤血球膜を通過できず、血漿中のアルブミンやトランスフェリンと結合し、主要な代謝臓器である肝、腎へ運搬される。ヒトでは60〜70%がアルブミン、30〜40%がトランスフェリンと結合。生理的役割は糖代謝(Cr含有耐糖因子)、コレステロール代謝、結合織代謝(コラーゲン形成のcross-linking)、タンパク質代謝などへの関与。 Cr欠乏は耐糖能異常、成長障害、短命、脂質・たんぱく質代謝異常、角膜疾患、動脈硬化などを誘発。体内分布は人種、地域差、年齢差、食習慣、環境汚染により変動。出生時、肝、腎、肺、心臓に多含するが、加齢と共に減少。 |
コバルト Co |
Co²⁺またはCo³⁺の状態で腸管から吸収され、さまざまな組織に分布するが、肝、腎、骨に比較的多含。ビタミンB12(シアノコバラミン)として神経組織の健康維持、赤血球や核酸の合成に必要。Co欠乏は悪性貧血、メチルマロン酸尿、食欲減退(くわず病)、体重減少などを誘発。悪性貧血では赤血球減少、巨大赤芽球出現。 |
モリブデン Mo |
モリブデートイオン(MoO₄²⁻)の形で吸収され、直ちに血中に入り、1日で尿に排泄。肝、腎、脾、肺、脳、筋肉に存在。体内Moのほとんどはアミノ酸代謝酵素、核酸代謝酵素、硫酸代謝酵素などの酵素の活性中心として存在。糖質や脂質の代謝を助け、貧血を予防。Mo欠乏は息切れ、速い心拍数、悪心、嘔吐、方向感覚の喪失、昏睡などの症状を誘発。食事からの欠乏はない。肝に多含のアルデヒド酸化酵素、亜硫酸酸化酵素、キサンチン酸化酵素などの活性中心でもある。Cuと拮抗(SO₄とMoによるCu代謝の妨害)。 |
ヨウ素 I |
摂取されたIイオンは甲状腺、唾液腺、胃腺で濃縮され、血液中のプールから毎日摂取量の20%(70〜80㎍)のIイオンが甲状腺に取り込まれる。甲状腺内に取り込まれたIイオンはチロシン分子と結合し、ほとんどがヨードチロニンの形で存在する。健常人甲状腺に存在するヨウ化物の割合はモノヨードチロシン(MID)が23%、ジヨードチロシン(DIT)が33%、チロキシン(T₄)が35%、3、5、5‘−トリヨードチロニン(T₃)が7%である。T₃、T₄とも甲状腺ホルモンの作用を持つが、遊離型のT₃の方が3〜5倍活性が強い。甲状腺の生理は独自の作用を持つIイオンの代謝・生理そのものである。成人のIの体内総量は20rであり、この80%が甲状腺にあり(他の組織濃度の約1万倍)、次いで肝、肺、卵巣、血液、筋肉に存在。酸素消費・熱産生の増加、アドレナリンの作用増強、成長ホルモンの合成促進、神経細胞の分泌成熟を誘導、水代謝の維持、脳下垂体TSHの分泌抑制などの生理機能あり。I欠乏は胎児・新生児期のクレチン病、幼児期の群生機能低下症、成人の粘液水腫(動作遅延、皮膚乾燥)、コロイド甲状腺腫、地方病理性甲状腺腫などを誘発。甲状腺ホルモン欠乏としては、基礎代謝低下、成長障害を誘発。 |
代謝については、吸収、体内での分布、排泄などの面から考察されている。その中で、微量元素の吸収は、宿主側の年齢、健康状態、胃腸管内の状態、摂取あるいは投与された元素(あるいは食餌中の元素)の化学形態、食餌中に共存する吸収修飾因子などにより大きく影響を受ける。吸収部位の大半は胃腸管からの吸収であるが、Fe、Cu、Znなどでは小腸とくに十二指腸である。しかし、それぞれの微量元素の吸収機構についてはFeやCuなどの一部の主な元素を除き、ほとんど解明されていない。
微量元素の体内での分布については、個々の元素において標的臓器が異なり、それぞれ特徴ある体内分布を示す。
例えば、吸収されたFe の大部分は、種々の代謝経路を経て体内へ連続的に分布してゆく。それらの経路の中で、血漿―赤血球―老いた赤血球―血漿の経路が最も大きな割合を占める。すなわち、消化管から吸収された血中のFeはトランスフェリンと結合し、血液循環により各臓器へ輸送される。組織内分布としては、約65%がヘモグロビンとして存在しているので、造血に関係ある臓器に多い。
Cu の代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系である。すなわち、腸から吸収され血液に入ったCuは血清アルブミンと結合し、Cu−アルブミンの血清貯留を作り、肝、腎へ輸送された後、それらの臓器でセルロプラスミンに取り込まれ、再び血漿中に含まれ、各組織へ広く分布するが、主要臓器である肝臓に達したCuは、ミトコンドリア、ミクロゾーム、核、可溶性分画に取り込まれる。肝臓中のCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て排泄され、腸内物質のところに戻る。組織内分布としては、肝、腎に多いが、臓器特異性はない。
吸収されたZn は、さまざまな組織にそれぞれ異なった速度で取り込まれる。これは組織ごとにZnの交替度が異なることを示している。Znの集積速度および交替度の最も早いのは、膵、肝、腎、脾臓である。骨や中枢神経系へのZnの取り込みは比較的遅いが、いったん取り込まれると強固に結合して長期間滞留する。臓器中、Zn濃度の最も高いのは前立腺であり、降順に、骨、腎、筋、肝、心臓、消化管、脳、睾丸、卵巣である。
Znの代謝経路の特異性は、注射によるZn供給や正常なZn吸収の妨害によりZnホメオスタシスが容易に撹乱されることである。すなわち、Znの吸収や排泄の場で作用しているZn代謝の恒常的制御は、吸収と排泄の両機構が一緒に機能している場合にのみ作動するといえる。
また、吸収されたMn はトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送される。体循環に入ったMnはとくに肝臓へ多く取り込まれ、すぐに肝臓を経由して胆汁に出現し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄されるが、組織の間で再配分される。血液からの消失と肝臓への取り込みの動的パターンが同じであることから、体内のMnの大部分は動的な、非常に流動的な状態にあり、血液中のMnと肝臓のミトコンドリアのMnは急速に平衡に達していることが分かる。
組織内分布としては、肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多く含まれる。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアでの交替度が高い。核での交替度は低い。
最近、微量元素の輸送にかかわるタンパク質の存在が明らかとなり、微量元素の細胞内における詳細な調節機構が明らかとなって来ている。例えば、ZnやCuに対するアルブミン、Cuに対するセルロプラスミン、Feに対するトランスフェリンなどは血液循環により各臓器へ金属を輸送する金属輸送たんぱく質であり、微量元素の恒常性を維持する生体機能分子としてよく知られている。そして、細胞内外における輸送タンパク質としては、Znに対する9種類のZnトランスポーターファミリー(ZnT family)や14種類のZipファミリー、Cuに対するCuトランスポーター(Ctr1)、Atox1-ATP7/ATP7B、CCS-Cu/Zn SOD,Cox17-CCO、Feに対するトランスフェリン−トランスフェリンレセプター(Tf-TfR)、DMT1、Ferroportin1などの存在が見出されている。
微量元素の体内での分布については、個々の元素において標的臓器が異なり、それぞれ特徴ある体内分布を示す。
例えば、吸収されたFe の大部分は、種々の代謝経路を経て体内へ連続的に分布してゆく。それらの経路の中で、血漿―赤血球―老いた赤血球―血漿の経路が最も大きな割合を占める。すなわち、消化管から吸収された血中のFeはトランスフェリンと結合し、血液循環により各臓器へ輸送される。組織内分布としては、約65%がヘモグロビンとして存在しているので、造血に関係ある臓器に多い。
Cu の代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系である。すなわち、腸から吸収され血液に入ったCuは血清アルブミンと結合し、Cu−アルブミンの血清貯留を作り、肝、腎へ輸送された後、それらの臓器でセルロプラスミンに取り込まれ、再び血漿中に含まれ、各組織へ広く分布するが、主要臓器である肝臓に達したCuは、ミトコンドリア、ミクロゾーム、核、可溶性分画に取り込まれる。肝臓中のCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て排泄され、腸内物質のところに戻る。組織内分布としては、肝、腎に多いが、臓器特異性はない。
吸収されたZn は、さまざまな組織にそれぞれ異なった速度で取り込まれる。これは組織ごとにZnの交替度が異なることを示している。Znの集積速度および交替度の最も早いのは、膵、肝、腎、脾臓である。骨や中枢神経系へのZnの取り込みは比較的遅いが、いったん取り込まれると強固に結合して長期間滞留する。臓器中、Zn濃度の最も高いのは前立腺であり、降順に、骨、腎、筋、肝、心臓、消化管、脳、睾丸、卵巣である。
Znの代謝経路の特異性は、注射によるZn供給や正常なZn吸収の妨害によりZnホメオスタシスが容易に撹乱されることである。すなわち、Znの吸収や排泄の場で作用しているZn代謝の恒常的制御は、吸収と排泄の両機構が一緒に機能している場合にのみ作動するといえる。
また、吸収されたMn はトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送される。体循環に入ったMnはとくに肝臓へ多く取り込まれ、すぐに肝臓を経由して胆汁に出現し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄されるが、組織の間で再配分される。血液からの消失と肝臓への取り込みの動的パターンが同じであることから、体内のMnの大部分は動的な、非常に流動的な状態にあり、血液中のMnと肝臓のミトコンドリアのMnは急速に平衡に達していることが分かる。
組織内分布としては、肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多く含まれる。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアでの交替度が高い。核での交替度は低い。
最近、微量元素の輸送にかかわるタンパク質の存在が明らかとなり、微量元素の細胞内における詳細な調節機構が明らかとなって来ている。例えば、ZnやCuに対するアルブミン、Cuに対するセルロプラスミン、Feに対するトランスフェリンなどは血液循環により各臓器へ金属を輸送する金属輸送たんぱく質であり、微量元素の恒常性を維持する生体機能分子としてよく知られている。そして、細胞内外における輸送タンパク質としては、Znに対する9種類のZnトランスポーターファミリー(ZnT family)や14種類のZipファミリー、Cuに対するCuトランスポーター(Ctr1)、Atox1-ATP7/ATP7B、CCS-Cu/Zn SOD,Cox17-CCO、Feに対するトランスフェリン−トランスフェリンレセプター(Tf-TfR)、DMT1、Ferroportin1などの存在が見出されている。
微量元素の排泄については、個々の元素において異なり、それぞれ特徴ある排泄を示す。例えば、Fe の尿や糞中に現れる量は極めて少なく、体がFeを排出する能力には限界がある。糞中に排泄されたFeのほとんどは吸収されなかった食物中のFeである。真の排泄Feは、剥離した細胞および胆汁に由来するものであり、胆汁中に存在するFeは主としてヘモグロビンの分解によるものである。また、尿や糞からのFeの排泄に加えて汗や毛、爪、皮膚からも連続的にFeが失われる。
摂取されたCu の多くは肝臓から胆汁系を経由し、糞中に現れる。このほとんどは通常吸収されないCuである。また、ごく少量のCuが直接血漿から尿中に、あるいは腸壁を通じて排泄される。肝臓―胆汁中分泌―胆管経路―腸管を経由する胆汁系排泄がCuの主要排泄経路である。
摂取されたZn は大部分糞便として体外に排泄される。糞中のZnは大部分未吸収の食餌中のZnで、体内分泌に由来するZnはわずかである。体内のZnは主に膵液を経て小腸へ排泄される。また、ごく少量のZnが胆汁、盲腸および結腸中に分泌される。尿中への排泄は極めて少ない。
摂取されたMn はすぐに胆汁に出現し、数種の経路をたどり、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄される。この排泄調節が、吸収調節よりも、Mn濃度を調節する有効な、恒常性を保つための機構として働く。すなわち、胆汁がMnの主要排泄経路であり、主要な調節機構である。胆管経路阻害などでMnの腸肝循環が過負荷で飽和した場合は、その調節手段および排泄過程として膵液からの排泄が増大する。健常時の尿中への排泄は非常にわずかである。
個々の微量元素の代謝や生理的機能の詳細については、他の項の各論を参照されたい。
摂取されたCu の多くは肝臓から胆汁系を経由し、糞中に現れる。このほとんどは通常吸収されないCuである。また、ごく少量のCuが直接血漿から尿中に、あるいは腸壁を通じて排泄される。肝臓―胆汁中分泌―胆管経路―腸管を経由する胆汁系排泄がCuの主要排泄経路である。
摂取されたZn は大部分糞便として体外に排泄される。糞中のZnは大部分未吸収の食餌中のZnで、体内分泌に由来するZnはわずかである。体内のZnは主に膵液を経て小腸へ排泄される。また、ごく少量のZnが胆汁、盲腸および結腸中に分泌される。尿中への排泄は極めて少ない。
摂取されたMn はすぐに胆汁に出現し、数種の経路をたどり、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄される。この排泄調節が、吸収調節よりも、Mn濃度を調節する有効な、恒常性を保つための機構として働く。すなわち、胆汁がMnの主要排泄経路であり、主要な調節機構である。胆管経路阻害などでMnの腸肝循環が過負荷で飽和した場合は、その調節手段および排泄過程として膵液からの排泄が増大する。健常時の尿中への排泄は非常にわずかである。
個々の微量元素の代謝や生理的機能の詳細については、他の項の各論を参照されたい。
生命を脅かす微量元素
微量元素はそれぞれが持つ機能に従って一定の元素バランスを保ち,正常な生命機能を発揮しているが,そのバランスが破綻するとそれぞれ特有の疾患を誘発する.
Znホメオスタシスの撹乱,とくにZn欠乏は細胞内代謝や細胞応答に関与するそれぞれの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して脳神経系,免疫系,内分泌系,消化器系,循環器系,栄養代謝系などさまざまな領域の機能障害を誘発し.さらに味覚障害,嗅覚障害,皮膚障害,毛髪の脱落,成長障害,免疫機能障害,記憶学習障害などの脳神経機能障害,種々の性ホルモン分泌障害などの生殖障害などを誘発する.先天性の欠乏症としては先天性腸性肢端皮膚炎などが挙げられる.
Fe欠乏は,貧血,疲労感,倦怠感,舌・口腔・胃・爪・毛髪などの組織異常,小児では食欲不振,発育不良を誘発する.Fe過剰では,ヘモシデローシスはFe貯蔵蛋白質のヘモシデリンが組織沈着するが機能障害はなく,一方,ヘモクロマトーシスは肝臓,膵臓,心臓,下垂体,性腺の臓器細胞にFe沈着を生じ,臓器障害を起こす.とくにFe過剰は,酸化ストレスの系でフェントン反応等により活性酸素生成を促進し,発がん促進に働く.
Cu欠乏は,セルロプラスミン,チトクロムC酸化酵素,リシル酸化酵素,チロシナーゼの活性低下を誘発し,貧血,心臓や動脈異常,脳神経障害や色素異常を引き起こす.先天性の欠乏症としてメンケス病があり,毛,骨,眼,血管などの異常,痙攣,筋肉緊張力の低下,知能や身体発育の遅延などを来す.これは,ゴルジ体膜上にあるCu輸送蛋白質(copper transporting P-type ATPase)の遺伝子異常で,Cuの吸収阻害や輸送障害による細胞内Cuの欠乏,腎へのCu蓄積が要因とされる.Cu過剰では,急性的には嘔吐,下痢,上腹部痛,重症になると溶血性貧血や循環虚脱を起こし死亡することもある.臓器でのCu沈着は肺での肉芽腫形成,線維化や肝臓での肝炎,肝硬変を誘発する.遺伝性Cu代謝異常として,組織にCuが沈着し,種々の障害を誘発するウイルソン病がある.
Znホメオスタシスの撹乱,とくにZn欠乏は細胞内代謝や細胞応答に関与するそれぞれの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して脳神経系,免疫系,内分泌系,消化器系,循環器系,栄養代謝系などさまざまな領域の機能障害を誘発し.さらに味覚障害,嗅覚障害,皮膚障害,毛髪の脱落,成長障害,免疫機能障害,記憶学習障害などの脳神経機能障害,種々の性ホルモン分泌障害などの生殖障害などを誘発する.先天性の欠乏症としては先天性腸性肢端皮膚炎などが挙げられる.
Fe欠乏は,貧血,疲労感,倦怠感,舌・口腔・胃・爪・毛髪などの組織異常,小児では食欲不振,発育不良を誘発する.Fe過剰では,ヘモシデローシスはFe貯蔵蛋白質のヘモシデリンが組織沈着するが機能障害はなく,一方,ヘモクロマトーシスは肝臓,膵臓,心臓,下垂体,性腺の臓器細胞にFe沈着を生じ,臓器障害を起こす.とくにFe過剰は,酸化ストレスの系でフェントン反応等により活性酸素生成を促進し,発がん促進に働く.
Cu欠乏は,セルロプラスミン,チトクロムC酸化酵素,リシル酸化酵素,チロシナーゼの活性低下を誘発し,貧血,心臓や動脈異常,脳神経障害や色素異常を引き起こす.先天性の欠乏症としてメンケス病があり,毛,骨,眼,血管などの異常,痙攣,筋肉緊張力の低下,知能や身体発育の遅延などを来す.これは,ゴルジ体膜上にあるCu輸送蛋白質(copper transporting P-type ATPase)の遺伝子異常で,Cuの吸収阻害や輸送障害による細胞内Cuの欠乏,腎へのCu蓄積が要因とされる.Cu過剰では,急性的には嘔吐,下痢,上腹部痛,重症になると溶血性貧血や循環虚脱を起こし死亡することもある.臓器でのCu沈着は肺での肉芽腫形成,線維化や肝臓での肝炎,肝硬変を誘発する.遺伝性Cu代謝異常として,組織にCuが沈着し,種々の障害を誘発するウイルソン病がある.