「如実智慧」銘肝の旅
現実を知覚し真実を洞察する「如実智慧」の旅
A journey of “real wisdom” to perceive reality and
gain insight into truth
gain insight into truth
最終講義
予防医学における栄養と毒 |
荒川 泰昭 |
−「如実智慧」銘肝の旅 − |
A journey of “real wisdom” to perceive reality and
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現実を知覚し真実を洞察する「如実智慧」の旅
{ }内は恩師・関連者・協力者 |
1.東京大学薬学部時代 薬品分析化学教室 {石館守三、田村善蔵、南原利夫、中島暉己、谷村恿徳、今成登志男} 1)臨床分析化学 ◯ 日本で最初にオートアナライザーを臨床検査に応用(血糖定量法の開発) 高価のため、学部予算で輸入し、米国派遣技術者と1週間、ホテルに缶詰めで個別の 技術講習を受ける。朝シャワーなど、西欧の生活様式を覚える {百瀬 勉} ◯ ガスクロマトグラフィーによる糖類の超微量(ナノグラム)分析法の開発 {田村善蔵、今成登志男} ▼日本臨床化学会(医化学シンポジウム)設立に参加 {田村善蔵、山村雄一(阪大医)、吉川春寿(東大医)} 田村教授と広島での学会発表に赴く途中、大阪大医学部内科学・山村雄一教授(のち、阪大総長)を訪問。プレゼンテーション後、会食し、日本臨床化学会(医化学シンポジウム)設立に協力を依頼。 ◯ 日本臨床病理学会、日本薬学会、日本分析化学会 ◯ 東京大学医学部付属病院臨床検査部{茂手木} 百瀬勉名誉教授の遺言となった奨励「日本一の臨床検査部門を作れ」を遵守し、在学中に第一希望の東京大学医学部付属病院臨床検査部門に就職(2〜3年間の留学を条件に)内定。ところが、大学院修了時、臨床検査部が教授制となり、茂手木部長が激戦の末、教授選敗退、新設の東京都臨床医学総合研究所参与として異動。一緒にと誘われたが、教職希望で東大内に残ることで、内定を取り消す。のち、基礎(東京大学医学部衛生学教室)へ入室。 ◯ 三菱油化BCL、三菱化学BCLの立ち上げに顧問として協力。のち、日本における臨床検査部門の最大企業となる。 2)生体内糖類の分析法の開発 ◯ 単糖(中性糖、アミノ糖、酸性糖、シアル酸)、オリゴ糖、ムコ多糖の超微量(ナノグラム)分析法の開発{今成登志男} ◯ 糖タンパク質ならびにムコ多糖類の構成糖の分析法の開発 当時、生化学界では、膜表面抗原や酵素活性部位の糖鎖解析が最も最先端の分野であったため、糖類の分析法の開発は渇望の的となり、主要大学リーダーからの共同研究依頼。 {大沢利昭、松本勲武(東大薬)、江上不二夫、福田 譲(東大理)、山川民夫、飯田、背山洋右(東大医)、加藤敬太郎、姫野勝(九大薬)、木幡 陽(東大医)、山科郁夫(京大薬)、八木国夫(名大医)} ◯ トリフルオロ酢酸による糖類の加水分解法を発明・開発 組織や結合糖からの単糖類の分離(加水分解)では、従来の希塩酸などでは加水分解中に、遊離糖の分解が激しく、正確な分析が困難であったため、ガスクロマトグラフィーによる超微量(ナノグラム)分析に適応可能なトリフルオロ酢酸による抜気陰圧下でのマイルドな加水分解法を考案した。 3)血液型物質(抗原)の分離・精製と構造解析 ◯ A,B,O型物質の分離・精製と糖鎖解明 血液型の決定は抗原(糖タンパク質)の糖鎖末端の種差によることを証明 {田村善蔵(分析)、水野伝一(微生物)、大沢利昭(薬作)、早津彦哉(衛生)} 以上、2)および3)は薬学博士論文(東京大学) ◯ 警視庁科学捜査研究所 協力{大熊、山本(警視庁)} 4)特異的がん抗原の検索 ◯ がん特異抗原フコース多含の糖タンパク発見{尾形悦郎(東大医)} 東大内科採取のがん患者の腹水中より、フコース多含のがん特異抗原を発見し、このフコシダーゼが「がんマーカー」となる 5)薬品公害に遭遇 ◯ キノホルムによるスモン病 教室伝来のキレート化学の基礎の元、舌苔ならびに尿中の緑色色素を抽出し、その正体(キノホルム−鉄錯体)を解明(吉岡正則) {田村善蔵、吉岡正則、井形昭弘(東大医)} |
2.東京大学医学部時代 衛生学教室 {豊川行平、山本俊一、和田 攻、大井 玄、小野 哲、長橋 捷、稲葉 裕} 1)疫学調査 ◯ 山梨県における肝がん肝硬変発生要因の解明に関する研究 −日本住血吸虫症− {山本俊一、丸地信弘、大井 玄、稲葉 裕} ◯ 医学統計懇談会(のちの東大医付属病院中央医療情報部、大学病院医療情報ネット ワーク(UMIN)センター) {山本俊一、稲葉 裕、豊川裕之、開原成允} 2)食品公害 ◯ 台湾におけるPCB中毒(油症)事件・研究協力、招待講演 台湾全土での患者数は1980年末で1800人を超えた。 ガスクロマトグラフィーによる血液/組織中PCBの分析法を確立。 当初は、台湾現地(台北、台中、台南)に赴き、採血後、日本にて分析。その後、台湾衛生署での分析を自立可能にした。 認定症状:黒色面皰、ざ瘡様皮疹(アクネ)、眼脂過多、歯肉および上下肢の指趾の色素沈着(黒変)、腹痛、性的不能など油症特有の病像を呈す。 (台湾政府委託){許 書刀、張 耀雄} 3)大気汚染 ◯ NOx排気ガス規制(政府諮問委員)(福田赳夫総理、通産省委託) 産業界にとって、環境庁の指針が厳し過ぎて対応が困難であり、適切なる基準値を知りたいとして、電業界、鉄鋼業界、自動車業界、建設業界などからの強い要求(突き上げ)のもと、福田赳夫総理直下で、通産省より委託される。「あくまでも、客観的な事実を中立に報告すること」を条件に、政府諮問委員として受諾。 {和田 攻、小野 哲、長橋 捷} 3年間 4)食品衛生 ◯ プラスチック製食器・食品包装材等の安全性(東京都委託) ◯ プラスチック添加剤の安全性に関する研究(東京都委託) (安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、硬化剤) 5年間 {美濃部亮吉都知事直委託、石館守三(日本薬剤師協会長)、山本俊一、大井 玄} ◯ プラスチック製食器・食品包装材等における有機スズの毒性に関する研究 (WHO食品安全委員会) 5)海洋汚染 ◯ 有機スズによる海洋汚染・研究協力・招聘講演 米国商務省標準局NBS、米国海軍研究所からの招聘講演、研究協力の要請。 有機スズの分析法を伝授(島津製GC機器などを紹介)。 また、これら政府機関の研究助成によるロックフェラー大学など全米の大学からの 招聘講演、研究協力依頼へと発展し、国際的規模の有機スズ海洋汚染に関する研究 の発端となる。{Brinkmannほか} (国際海洋会議ほか、各種国際会議招待講演、研究協力) 6)世界有機スズ環境計画 ◯ 世界有機スズ環境計画協会 ORganoTin Environmental Programme (ORTEP) Association 招聘 特別招待講演 ◯ スズ化合物環境技術協議会TETA {昭島化学工業、旭電化工業、勝田化工、共同薬品、郡山化成、堺化学工業、 三共有機合成、大協化成工業、大日本インキ化学工業、東京ファインケミカル、 日東化成、北興化学工業、エーピーアイコーポレーション、ADEKA} 招待講演 後々、主催する各種学術大会に支援いただく |
7)有機スズの研究 ◯ 10年先を見込み、先行環境汚染物質として、「有機スズ」を取り上げ、研究開始 自然界や食物連鎖を通して安定に残存し得る物質(すなわち、酸素、炭酸ガス、水などに対して安定な物質)をポーリング(Pauling)の電気陰性度などを駆使して選出し、電気陰性度1.7〜2.0に入るカドミウム、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、スズ、アンチモン、水銀、ビスマス、ヒ素、ホウ素などの有機金属の中から、産業界での頻用度を考慮しながら、10年先までに問題となる物質(先行環境汚染物質)として、「有機スズ」を取り上げ、本腰を入れて、スズの研究を開始した。 ◯ 分析法の開発(ガスクロ、高速液クロ、蛍光) ◯ 有機スズ特異的蛍光試薬(蛍光プローブ)の発明 蛍光電子顕微鏡下で、細胞内での有機スズの動きや分布の追跡を可能にした。 また、病理組織標本の染色剤としての利用を可能にした。 ◯ 代謝・体内分布・排泄 ◯ 生体内脱アルキル化を証明 ◯ 毒性(一般毒性、免疫毒性、脳神経毒性、内分泌毒性、生殖毒性など) ◯ T細胞性免疫不全と胸腺萎縮のメカニズムの解析 ◯ リンパ球活性化(トランスホーメーション)の阻害機序の解析 ◯ 細胞増殖抑制機構の解析 ▼ 日本毒科学会(のちの日本トキシコロジー学会)設立に参画 {和田 攻、黒岩幸雄(昭和大薬)、遠藤 仁(東大医・薬理)} 8)金属薬剤の開発 @ in vivo、 in vitroの二段階がんスクリーニング試験 A 各種悪性腫瘍細胞における増殖抑制試験 B アメリカ国立がん研究所(NCI)によるスクリーニング、 C NCI制癌部Narayanan部長による国際会議での称賛講演 {B. Rosenberg, VL. Narayanan他} ◯ 有機スズの新規抗がん作用(新規細胞増殖抑制機構)発見、有機スズ制癌剤の開発 免疫系では、選択的な胸腺委縮を誘発し、中枢免疫機能を抑制することから、細胞増殖抑制作用を発見し、さらには種々の悪性腫瘍細胞の増殖抑制を発見した。さらに、この抗がん作用のメカニズムは、従来の核アタックのDNA合成阻害によるものではなく、最も上流の膜介在情報伝達系の阻害が主因であること(悪性腫瘍細胞の新たな増殖抑制機構)を発見した。(この発見は、現在頻用されている腎毒性のあるシスプラチン抗がん剤に替わるものとして注目を浴び、世界各国の化学者の興味の対象となり、数多くの化合物が合成され始め、米国立がん研究所NCIにおいて抗がん性をテストされた金属の中で、スズはシスプラチンの1500種を抜いて最多の2000種以上となっている)。 そして、「スズと悪性腫瘍細胞増殖」を冠とした国際会議の設置やアメリカでの講演を皮切りに、無機・有機(金属)化学の生物活性を探究する国際学会やシンポジウムが活発化あるいは新規設置され、アメリカ、イタリア、ベルギー王国、ロシア・ラトビアなどのヨーロッパ講演へと発展した。とくに最高峰(出席者厳選のハイレベルの会合)とされる3年に1度開催のヨーロッパ化学会連盟主催(担当国:イタリア)やNATO連盟主催・最先端研究(担当国:ベルギー)の国際会議における特別招待講演などにおいて、自ら招待講演を熟すと共に、米国立がん研究所NCI・制癌部長の称賛講演をはじめ、各国多数の研究者からの称賛講演や会場でのスタンディングオベーションを賜った。入場時の拍手にも驚いたが、講演後、Excellent !!, Impression !! と口々に立ち上がり、スタンディングオベーションや拍手喝采を賜ったのは、生まれて初めてである。 |
◯ 有機スズの抗炎症作用発見 ヒスタミン・セロトニン系の第1相の炎症ではなく、ハイドロコーチゾンと類似の第2相のプロスタグランジン系を量依存性に抑制する抗炎症作用を発見した。(これは、副作用の多いハイドロコーチゾンに代わる非ステロイド系の抗炎症剤となり得るかもしれないということで、ノーベル賞授与のカロリンスカ研をはじめ、500通あまりの参照文献依頼と講演依頼が届いた)。 また、「スズと悪性腫瘍細胞増殖」に関する講演と同様に、アメリカでの講演を皮切りに、無機・有機(金属)化学の生物活性を探究する国際学会やシンポジウムが活発化あるいは設置され、イタリア、ベルギー王国、ロシア・ラトビアなどのヨーロッパ講演へと発展した。とくに最高峰(出席者厳選のハイレベルの会合)とされる3年に1度開催のヨーロッパ化学会連盟主催(担当国:イタリア)やNATO連盟主催・最先端研究(担当国:ベルギー)の国際会議における特別招待講演などにおいて、自ら招待講演を熟すと共に、各国多数の研究者からの称賛講演や会場でのスタンディングオベーションを賜った。入場時の拍手にも驚いたが、講演後、Excellent !!, Impression !! と口々に立ち上がり、スタンディングオベーションや拍手喝采を賜ったのは、生まれて初めてである。 ◯ Tin and Malignant Cell Growth (CRC Press, Boca Raton, Florida, USA)出版 Chapter 9. Suppression of cell proliferation by certain organotin compounds だけのゲラ刷りで 医学博士論文(東京大学) {江橋節郎(薬理)、多田富雄(免疫)、和田 攻(衛生)、大沢仲昭(内科)、 野々村禎昭(薬理)、荒記 俊一(公衆衛生)、黒木登志男(医科研)} 9)各種国際会議、国際シンポの開催、運営、招待講演 世界海洋会議や金属(スズ)と悪性腫瘍細胞増殖の冠会議、有機金属、生物無機化学など有機スズ研究に関連した各種国際会議、国際シンポの開催、運営、招待講演 10)生体機能(別)による毒性評価とその学問体系の構築 免疫系、脳神経系、内分泌系など、それぞれの生体機能(別)による毒性学的評価(それぞれの名称を免疫毒性学、脳神経毒性学、内分泌毒性学などと称する)の必要性を提唱し、その学問体系の構築を目指した。 ◯ 免疫毒性学的評価(免疫毒性学) 有機スズによる胸腺ならびにT細胞依存性部位の選択的委縮とその機序解明、 免疫抑制、膜介在リン脂質代謝系阻害による新規細胞増殖抑制作用、 膜情報伝達系の阻害を介する新規悪性腫瘍細胞増殖抑制機構などの発見。 「環境化学物質の免疫毒性学的研究」科研費A受託 ▼ 「スズと悪性腫瘍細胞増殖」に関する国際会議設立 ▼ 日本初の「免疫毒性」なる書籍名での発刊 ▼ 日本免疫毒性研究会設立の発端となる ◯ 脳神経毒性学的評価(脳神経毒性学) 有機スズ暴露や亜鉛欠乏による脳神経系障害(記憶学習障害、嗅覚障害、 その他感覚神経系障害)の発見と機序解析 ◯ 内分泌毒性学的評価(内分泌毒性学) 有機スズによる海洋汚染 {米国海軍研究所、米国商務省標準局NBS、世界海洋会議ほか} 有機スズによる生殖障害 (精巣委縮、精子減少、テストステロン量の低下)の発見と機序解析 海棲生物の生殖異常、雌雄反転、生態系の乱れ {堀口敏宏(東大農)} ▼ 世界海洋会議 ▼ 日本内分泌撹乱物質学会(環境ホルモン学会)設立の発端 |
3.アメリカ合衆国ユタ大学医学部時代 文部省長期在外研究員 乙種(新設:長期出張扱い:大学枠1名)初代第1号、米国ユタ大学医学部客員教授(麻酔科学・細胞膜情報伝達機構・膜物性学) 1)膜情報伝達系の膜物性学的研究 膜情報伝達系への膜物性学的アプローチ 2)局所麻酔のメカニズムの解析 3)膜介在(あるいは膜付着)酵素の活性化と膜物性作用関連物質 4)学生への講義 {ヘンリー・アイリング Henry Eyring(絶対反応速度論提唱、量子化学、分子動力学、アメリカ化学会理事長、アメリカ科学振興協会理事長)弟子} 文科省の従来の長期在外研究員制度(甲種:出張扱いなしのため退職あるいは休職が必要)の他に、「大学(全学部中)に1人の枠ではあるが、乙種として長期出張扱いとなる新制度が追加発布されたので、応募してみてはどうか」と医学部事務長からの知らせがあり、応募した結果、初代の第1号に選出され、海外での研究を思い立った。 発見した膜介在情報伝達系を介する新規細胞増殖抑制機構(悪性腫瘍細胞増殖抑制機構)について、さらにそのメカニズムを詳細に研究するために、膜物性学を研究し、かつ研究設備の整った大学として、理論化学者ヘンリー・アイリング(米国化学会理事長、アメリカ科学振興協会理事長、量子化学、分子動力学、絶対反応速度論で有名)の弟子たちでもある、米国ユタ大学医学部麻酔科学教室(そこでは、麻酔メカニズムを熱力学(thermodynamics)の面から膜物性学的に研究している)を出張先に選択した。 これまでの研究で、有機スズのジ体による細胞増殖抑制(悪性腫瘍細胞増殖抑制)は、@膜リン脂質代謝の阻害を介すること、Aゴルジ体や小胞体のリン脂質は、ベシクルの形でベシクル出芽や融合によってプラズマメンブレンへ輸送されること、Bゴルジ体や小胞体のオルガネラ間のリン脂質輸送の活性化は、膜の物性に影響されることなどを確認していたので、実際に種々のリン脂質ベシクル膜を作り、各種有機スズ(ジ体、トリ体)のメンブレンオーダーへの影響を調べた結果、トリ体は直接膜構造を破壊するのに対して、ジ体はベシクルの形で融合し、種々のリン脂質ベシクル膜に対し顕著に影響する。とくにPIP1やPIP2(PI代謝回転を誘起する最初の標的:ホスホリパーゼCの基質)のベシクル膜に対して、量依存性に、極めて強い「オーダリング」効果を示すことを発見した。すなわち、ジ体による細胞増殖抑制は、初期の段階で、膜介在のイノシトールリン脂質代謝を顕著に阻害することによって、下流への情報を阻害していることを膜物性学的にも実証した。 また帰国後は、生細胞において、発明した有機スズ蛍光試薬と蛍光顕微鏡により、ベシクルの形で融合あるいはカチオン様の膜透過によって細胞内に入ったジ体が、それぞれの疎水性に依存して、プラズマメンブレンや核ではなく、ゴルジ体や小胞体領域に選択的に集積し、それぞれのオルガネラにおける膜や構造を変化あるいは破壊し、各オルガネラ間のリン脂質輸送を阻害し、さらにはプラズマメンブレンを含めた細胞内リン脂質代謝を阻害し、中略するが、最終的にDNA合成を導く膜介在の増殖情報伝達系を阻害することを実証した。 |
4.静岡県立大学時代 公衆衛生学研究室、生体衛生学研究室 {内薗耕二、星 猛、広部雅昭} 1)将来構想学長諮問委員会設置 帰国後は、学長室に呼ばれ、相談を受けることが頻繁であった。そして、『自分の後継者として、わが恩師の山本俊一東大医学部名誉教授(衛生学)を第一候補に挙げていたが、山本先生は同じクリスチャンでもある日野原重明学長(当時点での職位)の聖路加看護大学(のち、聖路加国際大学に改変)の方(大学院博士課程設置のため)に取られ、「俊ちゃんが来てくれてれば、大学の組織編成を含め、文科省の大学設置申請も一発で通過でき、将来的にも全てが万々歳だったのだが、・・」』とその無念さを何度も聞かされた。 そしてまた、学部の編成についても、「わざわざ旧大学を解体してまで、夢のある斬新かつハイレベルの大学を描いたのに、旧態依然では(農学系・家政系範疇で全く斬新性が無い)解体した意味がない。将来、また同じように大学解体の憂き目に遇う。大学解体で辞めていった人たちにも申し訳ない」。今度はこのセリフを何度も聞かされることになった。 確かに、現実の学部の方向性や陣容をみても、赴任の話が来た当初の「生命科学を中心に、日本一の「健康科学」をリードする学部を作りたいというフレコミ」からは程遠く、生体系ではなく、農学系の「食品・栄養」という「栄養素学」を中心とした、名称を変えただけの家政科の域を出ないものであった。 加えて、内薗学長は、『斎藤滋与史・静岡県知事と会う度に、「要望はないか」「何でも応ずるから、どんどん上げてくれ」と言ってくれるが、肝心の学部長からは全く要望が上がってこない』、『学部長の学長願望が故の、着任後の保身・迎合なる態度・性行の豹変のためか』、『次期学長選挙での投票の頭数まで企んでのことか』、『保身・迎合に走り、やる気や鋭気を感じない』、『保身、迎合、排他、事なかれの無気力な旧態依然とした「群れ」のためか』、『大学を良くする気はあるのか』と悔やまれていた。 やむを得ず、最終的には、学長が自ら各学部から有意・有望人物を1人ずつ選出し、学部長を通さない、独立した「将来構想学長諮問委員会」を立ち上げ、毎週土曜日に参集し、「教育体制の改革、大学の組織改革、大学の開放、大学の国際化、大学院の創設」などについて、議論し、結論を「学長答申」という形で学長に上げ、これを各学部に下し、大学改革をして行こうというシステムを作ることになった。 {大坪 檀、東野武郎、金 両基、富沢寿勇、北大路信郷、立田洋司、沼田俊昭、鈴木静夫、鈴木晨夫(事務局長)} 開学したばかりであるにもかかわらず、体制の改革、組織の改革と・・、議論をしなければならないとは、なんと憐れな、お粗末なことになってしまったことか、旧大学を解体してまで、旧教員を辞めさせてまで、学部編成というまたとないチャンスを与えられたはずであるにもかかわらず、台無しにしてしまった。返す返すも、利己的な保身・迎合に走らない「先見の識あるいは慧眼」なる資質を有する者にリーダーシップを取らせるべきであった。 然れども、内薗学長の「何とかせねば」との責任感は強く、@ 東京工業大学と理化学研究所の主催で行われた10日間の「産官学共同戦略セミナー」に、参加費50万円を投じて、学長代理で参加させられたり、A 産官学共同研究システムが充実している米国ユタ大学の現状を紹介すると、学長自ら県役員を随行して視察に行ったり、さらにはB 免疫でノーベル賞を取ったばかりの利根川進博士に会いに、2人で千葉の幕張メッセ(講演で来日中)まで出かけ、本学での招待講演を取り付けたり、叶うことなら、次期学長をと期待したが、(己の実力や能力をわきまえず、不相応の地位や肩書ばかりを欲しがるような、そんじょ其処らの器の小さな小人とは次元が違い)、高邁なる学究心で、継続中の研究続行を望まれた。また、C 江橋節郎東大医学部名誉教授(薬理学、現・国立生理学研究所所長)や糸川嘉則京都大学医学部名誉教授(衛生学)に次期学長をお願いしてみたり、D 三島 大仁温泉で国際シンポジウムを開催し国際化への意識を高めたり、新設大学のレベルアップや活性化を通した意識改革により、旧態依然とした状態からの脱出を願い、奔走された。私も、学長の意を汲んで助力した。E 新設の県立大学が故の県民への還元として、大学の紹介を兼ねた県民の知識向上のために、「大学公開講座」を設置した。そして、F 対内外的に認知度、著名度に乏しかった”県立大学”の新しいモデル大学としての「可視性や認知性の向上強化」に努めた。 繰り返すが、現実の学部編成(方向性や陣容)をみても、赴任の話が来た当初の「生命科学を中心に、日本一の「健康科学」をリードする学部を作りたいというフレコミ」からは程遠く、また旧態依然とした保身・排他・視野狭窄の保守的な人間組織の塊からしても、どう考えてもこの赴任は、結果的には失敗で、騙された感が強かったが、内薗学長の誠意や熱意には報いようと、自らを納得させ、前向きに努力を開始した。 ところが、こうした経緯の後、長年にわたり、正体明白なる次元の低い稚拙かつ陰険・卑劣な「妨害や嫌がらせ」が多発した。昔からこの種の土着的妨害(手口)は、地方への新任時に頻発すると言われるが、その下劣でお粗末な相変わらずの手口にあきれ果てた。 詳細は、他所(書)に譲るとして、ここでは具体例を1つだけ紹介する。本人直接ではなく、裏で、デマを流し拡散(犯罪)、あるいは学生を含む研究室員への弄り、騙し、そそのかし、焚き付けなど、煽惑、使嗾、教唆による異常行動、不良行動や破綻への変容誘導などが繰り返された。これが、本大学への赴任において、私が最も失望してしまった点である。 こうした度量や品性に欠けた性状の小人雑輩なる「群れ」を同僚として相手にし、真面に付き合うほどの価値も見出せず、その人間性を憐れみながら、また時にはその「惑業苦」の応報を冷眼傍観しながら、そして殷鑑遠からず、必ずや蒙るであろう「天網恢恢」の行く末を案じながら、次第に徒労と化す「対内への注力」よりは、学究者として成すべき貴重な時間を国際レベルで切磋琢磨する「対外への注力」にスタンスを切り替えたこともここにあった。 ちなみに、見方を換えれば、公との関係性を築く大学の広報すなわち本来のPR(Public Relation)効果は後者の方が格段に有効であり、大学にとっては格段に貢献性が高い。 せっかくの機会であるので、今後の大学の存続のためにも、後輩の発展のためにも、参考になればと、老婆心ながら付記しておきたい。 |
2)大学院設置(便乗・環境研)の申請および認可までの経緯 そしてまた、大学院設置(便乗・環境研)の申請・認可についても、その誕生に直接関わった者として概略だけでも付記しておきたい。 赴任前の米国滞在中より、赴任の条件として「研究が十分に出来ること」を強調していたにもかかわらず、帰国してみれば、若手の教授は、最年少の私(荒川)以外に外部からの新任3名(小橋、竹石、野沢)、旧任1名(伊勢村)、合わせて5名しかおらず、しかも、教授の頭数に対して助手の数が半分以下というお粗末な編成であった。すなわち、助手は専属の研究室を持たない編成であった。これでは研究云々のレベルではない。ましてや、大学院設置申請など、烏滸がましいにも程がある。 早速、大学院設置審査委員会の主要な審査委員である懇意の京都大学医学部系の教授(現在では公表可:糸川嘉則)に現状を話し、少なくとも各研究室に1名の助手を配置することを設置審査の資格条件とするよう頼んだ。その結果、各研究室に1名の助手を配置することが実現した。 また、この時期、内薗学長が突然私の研究室に来られて、「薬学部の矢内原学部長が、多数在籍の40代・50代の助教授・講師・助手の対外進出(学外への栄転や異動)が難しい。ポスト拡大のために、「分析センター」の設立を、わが学部の大学院設置申請に便乗させてほしいと頼んで来たが、君はどう思うか、意見を聞かせてくれ」と問われた。「分析センターのオペレーターでは可哀そう過ぎる。便乗設置するならば、職位の付く正式な大学付属研究所とした方が良いのでは」と回答した。 その後、薬学部の矢内原学部長からも訪問があり、種々の話の中で「環境科学研究所なる名称を使いたいと思っているが、そのためには、出来れば、私の方の大学院の申請講座名には、「環境」の文字を使わないでいただけないだろうか」との要望があった。「いきなり環境科学ではハードルが高すぎる」「気象・地理系の自然的環境は別として、生体系等の社会的環境では、各種生体機能に対する有害性(阻害性)を見極める中毒学や毒性学などを熟知あるいは探究できなければ、単なる分析オペレーターになってしまう」とは申し上げたが、意を汲んで私の方は、環境の文字を削り、あくまでも生命科学の領域を維持し、本邦初の名称「生体衛生学」とした。 実は、静岡において時の主流である「環境」を唱えられる人材が居なかったため、大学院の申請講座名の1つとして、人を取り巻く全ての事象を「環境」(広義)とする「環境衛生学」を候補に挙げていたが、この件(環境研便乗申請依頼)が、私自身の今後のスタンス(将来への方向性)を再考する良い切っ掛けともなった。 国内でも名を売り、肩書を求めていく「上っ面」な生き方であれば、(あるいは、器の小さい小人に有りがちな「己の実力や能力をわきまえず」、不相応の地位や肩書を追い求める生き方であれば)、このまま国内を中心に、ニュースバリューのある環境問題を次々に手掛け、マスコミに乗り、著名度を高めることも可能かつ容易な状況(最も恵まれた優位な立ち位置)にあったが、(また、現大学の研究環境下では、この方が格段に安易な道であったが)、これでは学究者としてはあまりに平易で空しく、また虚しい人生となる。 逆に、学究者にとって、考え方、能力、内容など質の高いレベルの次元で切磋琢磨する醍醐味は、何物にも代え難く、今後もこれまで通り国際舞台で切磋琢磨し、リードして行くことを続けるのであれば、それに値するだけのレベルの高いアカデミックな「新知見」の発掘・生産や究明そして発信、提示が必要である。 結局、必須科目の「環境衛生学実験」など、学生への講義における学科目上の問題はあるが、これまでに、国内外を問わず、環境生命科学領域の仕事は誰よりも十二分に経験して来たことでもあり、また今後の栄養生命科学領域への進展を考慮すれば、敢えて研究室名を「環境・・」と名乗る必要もなく、これまで通り、国際舞台で切磋琢磨し、リードして行くことを前提に、国際レベルでアカデミックに「環境」を生体への有用性(栄養)と有害性(毒)の両面から捉えた「生命科学の領域」に身を置くことが本望であると考えた。 こうして始まった大学院の申請であるが、予想通り、この申請も一筋縄ではいかなかった。わが学部においても申請陣容の資格問題は多々ありはしたが、とくに、便乗申請である薬学部からの環境科学研究所の申請について、東京大学薬学部系の先輩教授(現在では公表可:)からは、東京での会合の折、『あの申請陣容では「環境科学」を専門に唱えられるレベルの申請者は1人もいない。レベル的にも経験的にも不合格』と自らが審査委員であることを知らしめるべく、評価を伝えてくれた。環境科学のレベルからして、もともとゴリ押しの感は拭えず、当然ながら1度目の申請ならず、2度目の申請でも不合格であった。3度目の申請で、「環境科学における専門知識と経験のある人材を核に置くことと今後の精進を担保に、要経過観察の条件で何とか見切り発車が許された。これがのちの環境研である。 |
3)生体機能(別)による毒性評価ならびに栄養評価とその学問体系の構築 静岡へ赴任後は、環境科学研究所の設置の件もあり、また学科目上、栄養学領域に属することから、以後の研究は、これまでの研究(有機スズ中心の環境生命科学)に並行して、亜鉛(当時は、医療界ですら「亜鉛の有用性」への認知度極めて希薄)を中心とする栄養生命科学の研究に着手し、「環境」を生体への有用性(栄養)と有害性(毒)の両面から捉えた「生命科学の領域」で展開した。 すなわち、静岡においては、通常および無菌動物飼育室の設置が整った段階で、有機スズ暴露による「海馬亜鉛の消失」、「亜鉛貯留部位における局所的な亜鉛欠乏」など、これまでの研究をヒントに、「有機スズによる有害性と有用性」の両面にわたる研究に並行して、「亜鉛による有用性と欠乏性」の研究を通して「亜鉛欠乏症の発症機序解明」の研究を開始した。 その結果、毒性の面(有機スズ暴露)および栄養の面(亜鉛欠乏)からの相反する環境悪化により生ずる病的老化が、悉く類似症状(脳機能・記憶障害、免疫機能障害、嗅覚障害、味覚障害、生殖機能障害、脱毛障害など)を呈することを発見した。 しかも、この有機スズの生物活性(脳神経系、免疫系、内分泌系などの生体機能のいずれに対しても強力な生物活性を示す)が悉く亜鉛欠乏の症状に重なるという事実は、以後の「生体機能別による有害性(毒性)および有用性(栄養)評価とその学問体系の構築」を目指す上で、極めて有効な手段(モデル)となった。 すなわち、これら毒性の面および栄養の面からの相反する環境悪化により生ずる病的老化を利用して、免疫系、脳神経系、内分泌系など、それぞれの生体機能(別)による毒性学的ならびに栄養学的な評価(有害性・有用性)とその学問体系の構築を実現化した。 さらに、この相反誘因なるも類似症状を呈する有機スズ暴露(毒)と亜鉛欠乏(栄養)による病的老化の利用は、両者間の病的老化の接点、さらには生理的老化の引き金(要因)となる接点や経路を探索することを可能にした。 3―1)生体機能(別)による毒性評価とその学問体系の構築 ◯ 免疫毒性学 ▼ 日本免疫毒性研究会設立 {佐野晴洋(京大医)、名倉 宏(東北大医)、大沢基保(帝京大薬)、森本兼曩(阪大医)、牧 栄二(ヤンセン)、澤田純一(国立医薬食衛生研)、高橋道人(昭和大医)、吉田武美(昭和大薬)、香山不二雄(自治医大)} ▼ 日本免疫毒性学会設立 {同上} ◯ 脳神経毒性学 記憶学習障害、嗅覚障害を利用した毒性学的評価 学会の設立までには至らなかった。 ◯ 内分泌毒性学 ▼ 日本内分泌撹乱物質学会(環境ホルモン学会)設立 {鈴木継美、大井 玄、森田昌敏(国立環境研)、松島綱治(東大医)} 3−2)生体機能(別)による栄養評価とその学問体系の構築 ◯ 免疫栄養学 ◯ 脳神経栄養学 ◯ 内分泌栄養学 ▼ 日本微量栄養素研究会 {山口賢次(国立栄養研)、糸川嘉則(京大医)、川島良治(京大農)、左右田健次(京大化研)、島薗順雄(東大医)、早石 修(京大医)、田中 久(京大薬)、木村修一(東北大農)、岡田 正(阪大医)大村 裕(九大医)、井村伸正(北里大薬)、中川平介(広島大生物生産)、和田 攻(埼玉医大)、安本教傳(京大食科研)、小石秀夫(大阪市大)、三崎 旭(大阪市大)、田中英彦(岡山大農)、日本クリニック(株)} ▼ 日本微量栄養素学会設立 {矢野秀雄(京大農)、江崎信芳(京大化研)、吉田宗弘(関西大)、鈴木鐡也(北大農)、吉野昌孝(愛知医大)、渡邊敏明(兵庫県大)、川村幸雄(近畿大)、日本クリニック(株)} ▼ 近畿亜鉛栄養治療研究会設立 {宮田 學(近畿健康管理)、井村 裕夫(元京大総長)、本田孔士(京大医名誉)、上田国寛(京大医名誉)、倉澤隆平(診療所顧問)、馬場忠雄(滋賀医大学長)、市山 新(浜松医大名誉)、千熊正彦(大阪薬大学長)、田中 久(元京都薬大学長)、桜井 弘(京都薬大名誉)、佐治英郎(京都大薬学部長)、青木継稔(東邦大学長)} ▼ 日本亜鉛栄養治療研究会設立 {同上} |
4)生体機能における微量元素の有用性(栄養・薬効)ならびに有害性(毒性・欠乏)の発現機構の機序解析 @ 免疫系(増殖、分化・成熟、細胞死、癌免疫) A 脳神経系(記憶・学習、嗅覚) B 内分泌系(生殖) とくに、以下の領域に注力した。 ◯ 体内各組織中微量元素の分布やバランスの解析(京大原子炉・放射化分析) 海馬、嗅覚などの脳内各組織、胸腺などの免疫系組織、睾丸などの生殖系組織 微量元素の特異的な過剰集積、局在化、貯留部位など、多くの知見を発見した ◯ 各種環境悪化による生体機能の病的老化と微量元素バランスの特異的変動(攪乱) 多くの知見を発見した(京大原子炉・放射化分析) ◯ 亜鉛の栄養学的研究 亜鉛欠乏による免疫不全、記憶・学習障害、嗅覚障害、生殖障害とその発症機序 解明 ◯ 有機スズの毒性学的ならびに創薬的研究 @ 有機スズ暴露による免疫不全、記憶・学習障害、嗅覚障害、生殖障害とその発症 機序解明 A 有機スズ制がん剤の開発 ◯ 細胞死(アポトーシス、ネクローシス)誘導メカニズムの解明 5)生理的老化の引き金(要因)となる接点や経路を探究 上述の如く、環境悪化の相反誘因なるも類似症状を呈する有機スズ暴露(毒)と亜鉛欠乏(栄養)による病的老化を利用して生理的老化の引き金(要因)となる接点や経路を探索した。すなわち、両者による病的老化の接点から、生理的老化の引き金(要因)となる接点や経路を究明した。 その結果、両者の症状発現プロセスには、共通の接点(膜情報伝達系、RNA・DNA合成系の阻害を介する細胞増殖抑制の系および酸化ストレスやミトコンドリア機能障害等に絡むカスパーゼ依存性のアポトーシスの経路など)が存在することを発見した。 すなわち、ジ体暴露の場合は細胞内リン脂質の輸送や代謝を阻害し、膜介在の増殖情報伝達系ならびにRNA・DNA合成系を障害するネクローシスが主(抗がん剤へと発展)であり、亜鉛欠乏との接点は主としてRNA・DNA合成系の障害を介する細胞増殖抑制である。 また、トリ体暴露と亜鉛欠乏との接点は、スズによる海馬亜鉛の消失の如きスズと亜鉛の置き換わりによる記憶学習障害やカルシウム過剰蓄積による嗅覚障害や血液脳関門の破壊なども見られるが、これらの現象も含め、脳神経系や血液脳関門、嗅覚神経系など感覚神経系に見られる細胞死は、いずれも酸化ストレスを介して、ミトコンドリア機能障害からカスパーゼ・カスケードの活性化、そして最終的にはDNAの断片化へと進むアポトーシスの経路を発見した。 さらに、内分泌系(生殖)では、有機スズは、精巣の間細胞にあるテストステロンを産生分泌するライデイッヒ細胞ならびに結合組織に集積し、これらが損傷脱落するため、精巣委縮やテストステロン量の低下などの生殖機能障害を誘発すること。亜鉛欠乏によっても同様の症状を誘発すること。しかも、このライディッヒ細胞の損傷脱落には、アポトーシスが関与していることなどを発見した。 併せて、スズ暴露と亜鉛欠乏の発症メカニズムにおける共通の現象として、亜鉛結合部位での亜鉛とスズの置き換わりの如き活性部位における微量元素間の置き替わりや相互作用による局所的な過剰蓄積(スズ、カルシウム、銅、鉄など)や欠乏(亜鉛)など、元素バランスの異常な攪乱が見られ、これが酸化ストレスや小胞体ストレスを誘発し、下流の不利反応の引きがねとなっていることを証明した。 以上のことから、環境悪化に起因する病的老化の誘導プロセスは、それぞれの機能や形態における生理的老化と同じ現象(生理的老化の修飾)であり、この現象を発現する要因こそが老化プロセスとの接点であることが示唆された。すなわち、両者において共通に見られる要因の中で、生体に不利益な反応または物質の蓄積、例えば上流初期に見られる「カルシウム、鉄、銅などの過剰蓄積や亜鉛の過剰欠乏など、微量元素の攪乱」、「情報伝達の誤り」などは老化を誘発する「不利効果の蓄積」の1つと見なすことが出来る。 6)呼気中成分分析による病態解析 放射化分析による病態(高血圧、肺疾患、糖尿病、心疾患、肝疾患、脳血管障害など)特有の呼気中微量元素の発見。血中濃度や投与薬剤とは無関係に、呼気中微量元素バランスは病態により再現性よく、しかも特異的に変化する。 {国友謙(静岡県立大)、遠藤由(メディトピア沼津)、中島晴信(大阪府立研)、竹内孝之(京大原子炉研)、中野幸廣(京大原子炉研)} |
7)学会運営 ❑ 日本微量元素学会(理事長、会長)(本部事務局) {富田 寛(日大医)、野見山一生(自治医大)、岡田 正(阪大医) 木村修一(東北大農)、左右田健次(京大化研)、田中 久(京大薬)、和田 攻(東大医)、糸川嘉則(京大医)、荒川泰行(日大医)、高木洋治(阪大医)、丸茂文昭(東京医歯大医)、原口紘炁(名大工)、青木継稔(東邦大医)、鈴木和夫(千葉大薬)、桜井 弘(京都薬大)} ❑ 日本免疫毒性学会(名誉会員、理事、会長) {佐野晴洋(京大医)、名倉 宏(東北大医)、大沢基保(帝京大薬)森本兼曩(阪大医)、牧 栄二(食農医薬安評センター)、澤田純一(国立医薬食衛生研)} ❑ 日本微量栄養素学会(名誉会員、会頭、理事) {川島良治(京大農)、左右田健次(京大化研)、糸川嘉則(京大医)、早石 修(京大医)、田中 久(京大薬)、大村 裕(九大医)、木村修一(東北大農)、井村伸正(北里大薬)、岡田 正(阪大医)、桜井 弘(京都薬大)} ❑ 日本薬学会(会長、常任世話人、幹事) {山根靖弘(千葉大薬)、田中 久(京大薬)、松島美一(共立薬大)、宮崎元一(金沢大薬)、木村栄一(広島大薬)、山内 脩(名大工)、桜井 弘(京都薬大)、鈴木和夫(千葉大薬)、佐治英郎(京大薬)、長野哲雄(東大薬)、塩谷光彦(東大理)、桐野 豊(東大薬)、井上圭三(東大薬)} ❑ 日本亜鉛栄養治療研究会(名誉会員、顧問、発起人) {宮田 學(近畿健康管理)、井村 裕夫(元京大総長)、本田孔士(京大医名誉)、上田国寛(京大医名誉)、倉澤隆平(診療所顧問)、馬場忠雄(滋賀医大学長)、市山 新(浜松医大名誉)、千熊正彦(大阪薬大学長)、田中 久(元京都薬大学長)、桜井 弘(京都薬大名誉)、佐治英郎(京都大薬学部長)、青木継稔(東邦大学長)} 8)微量元素の栄養・毒性の総合評価ならびに策定 ❑ 微量元素の栄養ならびに毒性評価委員会設立(日本微量元素学会) 9)微量元素の生体内撹乱にみる保健機能食品の安全性と有効性 ◯ 今後の問題点―課題提起― 量(欠乏、過剰、感受性)、蓄積、相互作用 推奨量(RDA)、許容限界量(RfD)設定の正確化 10)サプリメントと健康 ❑ 厚労省(財)日本健康・栄養食品協会(学術アドバイザー、学術専門委員) 保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)の内、有効性や安全性など、国による個別の審査および許可を必要とする特定保健用食品が主。 ちなみに、栄養機能食品は、国による個別の審査は必要なく、既に科学的根拠が確認された栄養成分を含む場合で、国が定める定型文で栄養成分の機能性表示が必要。機能性表示食品は、国の審査はなく、届出(消費者庁)も表示も事業者責任である。 {山東昭子(参議院議員、のち参議院議長)、細谷憲政(日本健康・栄食協会)、林 裕造(日本健康・栄食協会)、下田智久(日本健康・栄食協会)、渡邊 昌(国立健康・栄養研)、平山 雄(国立がんセンター)、小林修平(人間総合科学大)、大野泰雄(国立医薬食品衛生研)、若狭千之、石田幸久、橘川俊昭、福本成子、中澤信子(日本健康・栄食協会)} |
略 歴 |
[学位] 医学博士(東京大学)、薬学博士(東京大学) [主な職歴] 東京大学医学部助手(衛生学)、東京大学医学部講師(併任)(付属看護学校、衛生学)、文部省長期在外研究員 乙種(新設:長期出張扱い:大学枠1名)初代第1号、米国ユタ大学医学部客員教授(麻酔科学・細胞膜情報伝達機構・膜物性学)、静岡県立大学・大学院教授(公衆衛生学、生体衛生学)、厚労省所管(独)機構・客員、厚労省所管(財)協会・学術アドバイザー、厚労省発行国際学術誌・エディター、ほか。 その間、群馬大学医学部講師(併任)(衛生学)、日本大学医学部講師(兼任)(衛生学)、千葉大学大学院薬学系研究科講師(非常勤)(薬品分析化学)、英国オックスフォード大学客員、サセックス大学客員などを兼務。 [所属学会] 日本微量元素学会(理事長(第6代、第7代)、理事、第17回・会長) 日本免疫毒性学会(名誉会員、理事、第9回・会長) 日本微量栄養素学会(名誉会員、理事、第18回・会頭、第25回・会頭) 日本薬学会(物理系薬学部会:常任世話人、幹事、第14回シンポ・会長) 日本衛生学会(評議員) 日本内分泌撹乱化学物質学会(環境ホルモン学会、発起人、評議員) 日本公衆衛生学会(評議員) 日本亜鉛栄養治療研究会(名誉会員、発起人、顧問) その他、国際微量元素医学会(ISTERH)、有機金属と配位化学、生物活性に関する国際会議、「スズと悪性腫瘍細胞増殖」シンポジウムなど、国際会議・国際シンポジウムの議長、顧問、国際科学委員・諮問委員・運営委員、国際科学誌・学術機関誌のエディターなどを兼務。 [主な表彰] 厚生労働大臣 功労賞 日本微量元素学会 功労賞 日本免疫毒性学会 名誉会員 日本微量栄養素学会 名誉会員 日本亜鉛栄養治療研究会 名誉会員 全国栄養士養成施設協会 会長賞 International Distinguished Leadership Award for Contributions to Hygiene and Preventive Medicine 東京医学会 創立15周年記念 医学研究奨励賞 中日新聞社 東海学術奨励賞、ほか。 [特許] 「油の劣化抑制方法および抑制剤」(特開平9-217082)ほか。 [主な著書] (1) Tin and Malignant Cell Growth (CRC Press, Boca Raton, Florida, USA) (1988) (2) Chemistry and Technology of Silicon and Tin (Oxford University Press , Oxford, UK) (1992) (3) Metal Ions in Biological Systems, Vol.29 (Marcel Dekker Inc., New York, USA) (1993) (4) Main Group Metal Chemistry (Freund Publishing House, London, UK) (1994) (5) Main Group Elements and Their Compounds (Narosa Publishing House, New Dehli, India) (1996) (6) Chemistry of Tin (Blackie Academic & Professional, Chapman & Hall, Glasgow, UK) (1998) (7) Metallotherapeutics.(John Wiley & Sons, Ltd, West Sussex, UK) (2003) など、微量元素と健康影響(栄養、薬効、毒性、老化)に関する著書多数。 |
▼ 静岡県立大学創立記念誌 「この10年間の歩み」
ああああああああああああああああ公衆衛生学・助手・栗山孝雄 記
ああああああああああああああああ公衆衛生学・助手・栗山孝雄 記
University of Shizuoka: Founding commemorative magazine
“Progress over the past 10 years”
“Progress over the past 10 years”