有機スズの生殖系への影響
精巣萎縮と男性ホルモン低下
日本中が水銀、鉛、カドミウム、ヒ素などによる公害問題で苦悩している頃、先取りをして、これら物質に替わり将来問題を起こし得る物質は何かを検索し、水銀、鉛などに替わり工業界、農水産業界、食品業界等において最も頻用され、地球上に残存し得る(水、空気、光、温度などに安定な)物質として有機スズを取り上げ、研究を開始した。その3〜4年後には、この有機スズの仕事は食品汚染や海洋汚染の問題発覚と共に、WHO特別委員会や米国商務省(NBS)や海軍研究所等の目に留まり、これら機関をはじめロックフェラー大学など全米の各大学から招聘、講演、研究指導、研究協力などを要請されるところとなる。これに端を発して、さらに、この研究は全米からヨーロッパへと波及し、多くの国際会議も発足し、海洋汚染など世界レベルの環境問題へと発展した。そして、この仕事はその後10年以上を経過した後、さらに雌雄変換など生態系の攪乱問題へと発展し、現在の環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)問題として認識されるに至っている。
有機スズの生体影響については水生類では環境ホルモンとして、また哺乳類では脳神経系や免疫系などとともに、生殖系への影響についてもデータを積み重ねているが、本稿では精巣への影響について解説する。
有機スズ暴露により、精巣の著しい萎縮が観察された。組織形態学的所見では、精細管の周辺の間細胞や結合組織の脱落が見られた。この時、テストステロン濃度も著しく低下した。これらの現象は1、2、5、8週間の長期経口投与でも、1、2、3、4日間の短期腹腔内投与でも同じように起こった。
とくに、間細胞にはテストステロンを産生分泌するライディッヒ細胞が存在しており、これが損傷脱落したために、精巣萎縮およびテストステロン量の低下が誘発された。しかも、このライディッヒ細胞の損傷脱落には、アポトーシスが関与していた。また、長期(8週間)連続経口投与ではこの低下がより顕著であるが、5週目ごろより耐性発現による回復が見られた。
有機スズの生体影響については水生類では環境ホルモンとして、また哺乳類では脳神経系や免疫系などとともに、生殖系への影響についてもデータを積み重ねているが、本稿では精巣への影響について解説する。
有機スズ暴露により、精巣の著しい萎縮が観察された。組織形態学的所見では、精細管の周辺の間細胞や結合組織の脱落が見られた。この時、テストステロン濃度も著しく低下した。これらの現象は1、2、5、8週間の長期経口投与でも、1、2、3、4日間の短期腹腔内投与でも同じように起こった。
とくに、間細胞にはテストステロンを産生分泌するライディッヒ細胞が存在しており、これが損傷脱落したために、精巣萎縮およびテストステロン量の低下が誘発された。しかも、このライディッヒ細胞の損傷脱落には、アポトーシスが関与していた。また、長期(8週間)連続経口投与ではこの低下がより顕著であるが、5週目ごろより耐性発現による回復が見られた。